若林晃一税理士事務所

贈与を相続で精算する? 難しい相続時精算課税を分かりやすく解説します

贈与税はかからないけど損な制度です


贈与税の基礎知識でも説明した通り、贈与税はもらった人に非課税金額の110万円を超える部分について10%~55%の税率で課税されます。

しかし2500万円まで贈与税が課税されない制度があります。

それが相続時精算課税です。

この制度は親や祖父母が所有している財産を相続が発生する前に子や孫等に移転し、財産を有効活用してもらうことにより経済の活性化を図る目的で創設された制度です。

この制度を使えば贈与税が課税されずに相続財産を減らせるから相続税の節税に使えると思う方もいるかもしれませんが、実はそんなことはありません。

実は使わないほうが節税になります!!

ここでは相続時精算課税の仕組みについて解説したいと思います。

(実は得になる場合もたまにあります。興味のある方は相続時精算課税を利用した方がいい場合と注意点にについて解説しますをご覧ください)

相続時精算課税の適用を受けられる人は?


相続時精算課税の適用を受けるためには、贈与者(あげる人)・受贈者(もらう人)がそれぞれ次の要件を満たさなければなりません。

(1)贈与者(あげる人)の要件

贈与をした年の1月1日において60歳以上

(2)受贈者(もらう人)の要件

次の①及び②の要件をどちらも満たす

①贈与を受けた年の1月1日において20歳以上

②贈与者の直系卑属(子や孫)である推定相続人又は孫

推定相続人とは、その時点で相続が開始された場合に、相続人になると推定される人のことを言います。

次の場合、推定相続人は配偶者乙、子A、孫Dで、そのうち直系卑属は子A、孫Dとなります。


孫も②の要件を満たすとされているので、孫Cも②の要件を満たすこととなります。

結果、子A、孫C、孫Dが②の要件を満たすこととなります。

まわりくどい言い方をしてしまいましたが、基本的には20歳以上である子と孫が受贈者(もらう人)である場合、相続時精算課税を適用することができると考えてください。

また、相続時精算課税は受贈者(もらう人)ごとに、また、受贈者ごとに選択することができます。

たとえば、次の例では子Aは甲からの贈与については相続時精算課税を利用していますが、乙からの贈与については暦年課税の贈与としています。

一方、孫Cは甲からの贈与については暦年課税の贈与としていますが、乙からの贈与については相続時精算課税を利用しています。


子Aが甲及び乙どちらからの贈与についても相続時精算課税を適用することも可能ですし、孫Cが甲及び乙どちらからの贈与についても暦年贈与とすることも可能です。

相続時精算課税を利用しても最終的には課税されます

「怒っているプンプン顔の女性」の写真[モデル:土本寛子]

相続時精算課税制度は簡単に言うと、

2,500万円まで生前贈与をしても贈与税は課税しないけど、贈与をした人が亡くなったら「亡くなった時に持っている財産の価格」と「生前贈与をした財産の価格」の合計に相続税を課税する

という制度です。

言葉だけではわかりづらいので、具体例で解説します。

令和元年、父が長男に500万円贈与します。

長男は相続時精算課税を利用します。贈与された金額は2,500万円以下なので贈与税は課税されません。


500万円贈与をした結果、もともと1億円持っていた父の財産は9,500万円となります。

500万円の生前贈与をした5年後の令和6年、父は死亡します。

死亡時に父は引き続き9,500万円の財産を所有していたとします。

この9,500万円について相続税の申告をすればいいのかというと実際はそのようにはなりません。

ここで考慮しなければならないのが令和元年の相続時精算課税を利用した500万円の贈与です。

父から500万円の生前贈与を受けたときは贈与税を支払う必要はありませんでしたが、贈与をした父が死亡した場合には死亡時の財産9,500万円だけでなく、相続時精算課税を適用した500万円についても相続税が課税されます。

結果、父の死亡時には

9,500万円(相続時の財産)+500万円(相続時精算課税により贈与した財産)=1億円

に対して相続税が課税されます。


500万円生前贈与をしたときは贈与税が課税されず得をしたように感じますが、父が死亡した際には生前贈与をした500万円に対しても相続税が課税されます(つまりお得になっていません)。

このように相続時精算課税は生前贈与をするときは2,500万円まで贈与税を課税しませんが、生前贈与をした人の相続に贈与税を課税しなかった贈与についても精算して相続税を課税する制度です。

最終的に相続税が課税されるので相続時精算課税を利用しても基本的に節税することができないというのが実際のところです。

暦年贈与をした場合と比較すると!?

「顎に手を当てて考える女性」の写真[モデル:にゃるる]

では先ほどの例で

「令和元年に500万円を贈与を受けて、相続時精算課税を利用する」のではなく、

「令和元年から令和5年まで毎年100万円の暦年贈与を受ける」場合にはどのようになるでしょうか?

受贈者(もらう人)は毎年110万円までの暦年贈与については贈与税は課税されないこととされています。

長男は毎年110万円以下(100万円)の贈与を受けているので贈与税は課税されません。


令和6年父が死亡した時に、父は相続時精算課税を利用していた時と同様に9,500万円の財産を所有していたとします。

今回のように相続時精算課税を利用していない場合には、死亡時の財産9500万円に相続税が課税されるか、というとそのようにはなりません。

ここで考慮しなければならないのが生前贈与加算です。

生前贈与加算とは

相続などにより財産をもらう人が、被相続人(死亡した人)から、死亡の日からさかのぼって3年以内に、贈与によりもらった財産がある場合には、その贈与によりもらった財産の価格を足した金額を相続財産の価格とする

という制度です。

長男は父の死亡前3年以内に合計300万円の生前贈与を受けているので、

9,500万円(相続時の財産)+300万円(生前贈与加算)=9,800万円

に対して相続税が課税されます。


相続時精算課税を利用した場合は1億円に対して相続税が課税されましたが、相続時精算課税を利用しない場合には9,800万円に対して相続税が課税されるので、相続時精算課税を利用しないほうが相続税が課税される財産は200万円少なくなります。

200万円少なくなるのは令和元年と令和2年に贈与した計200万円は生前贈与加算されず相続税の課税されないからです。

令和元年と令和2年の贈与については贈与税が課税されないため、相続時精算課税を利用しないほうが、相続時精算課税を利用する場合より、相続税が課税される財産が200万円少ない分単純にお得といえます。

つまり、暦年贈与の場合は相続の3年前の日より前にされた贈与については相続税が課税されず、贈与税の110万円の非課税を利用して継続して贈与した場合、贈与税の負担がなく相続税が課税される財産を減らすことができます。

生前贈与加算についてはこちらで詳しく解説しています。
相続開始前3年以内の贈与には節税効果なし!ただし孫への贈与は効果があります!

相続時精算課税を選択すると暦年課税には戻れません!


相続時精算課税を使うより暦年課税で110万円の贈与税の非課税を利用して贈与した方が節税することができるということであれば次のように考える方もいると思います。

家を買うときなど一度に多額の贈与をしたいときは相続時精算課税を利用して贈与をすれば贈与税は課税されない。そのあとは毎年贈与税が課税されない110万円の贈与を繰り返して相続税が課税される財産を減らしていこう!

しかし残念ながらこのようなことはできない制度になっています。

相続時精算課税は一度使ってしまうと、そのあとの贈与は暦年贈与とならず必ず相続時精算課税を利用した贈与となるからです。

次の例でみていきたいと思います。


令和元年、父から500万円の贈与を受けた長男は相続時精算課税を利用することとします。

2500万円以下の贈与なので贈与税はかかりません。

令和2年、長男は父から100万円の贈与を受けますが、令和元年に相続時精算課税を利用しているので、この100万円の贈与は暦年贈与ではなく相続時精算課税を利用した贈与となります。

この100万円の贈与についても贈与税は課税されないこととなります。

なぜなら、相続時精算課税を一度利用すると、それ以後のすべての贈与額の合計が2,500万円に達するまで贈与税は課税されないこととされているからです。

令和2年に100万円の贈与をしたときには、長男は父から累計で

500万円(令和元年)+100万円(令和2年)=600万円

の贈与を受けています。

累計で2,500万円以下なので令和2年に受けた贈与についても贈与税を課税されません。

令和3年にも100万円の贈与を受けていますが、こちらも同様に贈与税は課税されないこととなります。

ただし、令和7年父が死亡したときには、死亡時の財産9,300万円と贈与した財産700万円の合計1億円に相続税が課税されます。

つまり、一度相続時精算課税を利用するとその後は暦年課税に戻れないので110万円の非課税枠が一生使えず、相続時精算課税を利用したあとに生前贈与をした財産については相続税が課税されることとなります(基本的に損です)。

そのため、相続時精算課税を利用するときは、一度選択したら2度と戻れないことを認識したうえで、慎重に利用するか検討しなければなりません。

2,500万円を超えると贈与税が発生します

「「お使いの端末(スマホ)はこのバージョンに対応していません」」の写真[モデル:千歳]

相続時精算課税では、贈与を受けた金額が累計2,500万円に達するまでは贈与税は課税されないとされています。

では贈与を受けた金額が累計2,500万円を超えたらどうなるのでしょうか?

この場合、贈与を受けた金額のうち2,500万円を超える金額に対して一律20%の贈与税が課税されます。

次の例で見ていきます。


令和元年、長男は父から2,000万円の贈与を受けて相続時精算課税を利用します。

2,500万円の非課税枠の範囲内なので贈与税はかかりません。

令和2年、長男は父から1,000万円の贈与を受けます。

令和元年の2,000万円の贈与と合わせると合計3,000万円の贈与となります。

相続時精算課税の非課税枠2,500万円を500万円超えることとなるので、500万円×20%=100万円の贈与税が課税されます。

令和7年父が死亡した時には

7,000万円(相続時の財産)+3,000万円(贈与財産)=1億円

に相続税が課税されます。

ただし、このままでは贈与した財産について贈与税と相続税が二重に課税されている状態となるので、計算された相続税額から贈与税額100万円を控除した金額が実際に納付する相続税額となります。

相続税の計算の時に贈与税額が控除されるので相続税と贈与税が二重に課税されるということはないのですが、相続税が課税される金額が減るということはないので節税にはなっていないということになります。

まとめ

今までお伝えした通り、相続時精算課税では贈与をしたときは2,500万円まで贈与税はかかりませんが、相続時に贈与した金額も含めて相続税が課税されるので、基本的には課税の先送りといえる制度です。

そのため、基本的には利用してもお得にならない制度です。

しかし、相続時精算課税を利用した方がいいという場合もまれにあります。

ご興味のある方は

相続時精算課税を利用したほうがいい場合と注意点

をご覧ください。

また当事務所では相続時精算課税の利用の可否も含めて相続にかかわる現状分析、対策の立案・実施についても相談を承っています。

ご興味のある方はお気軽にご相談ください。


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